薄氷

書き散らし場

チームゼウス推しの初心者が神域リーグで麻雀の奥深さに食らった話するから聞いてくれ

見ました? 神域リーグ。第一節。5/8の。

めっっっっちゃ面白かったですよね????

 

神域リーグって何? という方はとりあえず下記の動画をご覧ください。

(10分ごろから音入り、直後にリーグの説明が入ります)

www.youtube.com

知ってるけど見てないわ、という方はアーカイブが無料で見られますよろしくお願いします。

全十節中の第一節が終わったばかりでド序盤ですし、第二節は5月23日ですのでまだまだ追いつけます。一緒にこの激アツコンテンツを見届けましょう。

youtu.be

 

同時接続者数3万人オーバー、日本トレンド入り、ファインプレーした選手の名前もトレンド入りするほど注目を集めた神域リーグ第一節。これを書いている人も手に汗握って応援しながらずっと涙ぐんでおり、翌朝の満員電車の中でも麻雀のことを想っておりました。

麻雀のまの字もわからぬぺーぺーが、神域リーグを通じて麻雀の奥深さに心臓タコ殴りにされた話をします。よかったら聞いていってください。

神域リーグで感じた、麻雀の新たな面白さ

私は神域リーグの主催である天開司さんのファンであり、「あの人がやってるゲームやってみたいな(視聴者参加型もあるし)」というよくあるオタク仕草をなぞる形で麻雀を始めました。

自分ではほとんど打てないのですが(雀魂では雀士1レベル)、ルールはおおむねわかり、大会の解説で出る用語やコメント欄の盛り上がりにもそこそこついていけるくらいの理解度です。

天開さんを応援していると、麻雀というゲーム・競技に触れる機会は非常に多く、ひりついた段位戦で勝手に胃をキリキリさせたり、特殊ルール麻雀の意外な展開に腹抱えて笑ったり、バーチャルインターハイ嶺上開花で涙したりと、様々な形で麻雀を見ることを楽しんでいました。麻雀が面白くてすごいゲームだということは知っていたつもりです。

ですが、神域リーグを視聴して感じた「面白さ」は、私にとって全く新しいものでした。ざっくり言うと、

これまで:麻雀って面白いなぁ、難しそうだけど、すごいゲームだなぁ。

今:えっ、麻雀おもろ!? 麻雀ってそういうことなの!? マジで!? そんなことみんなあの一瞬でやってんの!? 嘘じゃん! えっ、え~~~~麻雀おもろ……なにそれ……むっちゃおもれ~ゲームじゃん!!!!!

このぐらいの温度感の違いです。試合内容も展開も結果も大変楽しんだのですが、そうではないところで麻雀に「触れた」感覚がありました。麻雀というゲームそのものがはちゃめちゃに面白く感じたんです。

プロやそれに準ずる実力者たちの脳内が覗ける、神域リーグという場

そう思えたのは間違いなく、神域リーグが「長期のチーム戦」、「ランク制ドラフト」かつ「プロが監督」という形式を採用していたからだと思います。

私が「麻雀おもれ~~~!!!」となったのは、プロである監督やAランクの超実力者たちがその考え方をわかりやすく伝えてくれるからでした。Bランク・Cランクの選手の牌譜検討の際「中級者はこう考える、それでも悪くないが、こういうやり方もある」「初心者だと難しいけど、最低限これを押さえておくと違う」など、新たな視点がどんどん出てくるんです。

正直難易度高すぎてひよっこの私には全然わからん! 呪文だ! となることも大いにあるのですが、「プロやトップ層はここまで考慮している」というすごさはバチバチに伝わってきます。

もちろん、Vtuberでは今回の参加者でもある鴨神にゅうさんや千羽黒乃さん、プロでは多井隆晴さんなども自身のチャンネルで麻雀の解説をされています。

ただ、神域リーグではプロとトップ層が揃って同時に教えていることで「超実力者のアドバイスに違う視点から補足するプロ」という激烈ハイレベルで貴重な場面が毎秒ある(詳細はわからんけど超すげぇこと話してるのはわかる)んです。

また、プロである監督と超実力者のAランク選手が同じ考え方をしていることで、ストリーマーのトップ層のレベルの高さを改めて感じることができました。同時に、さらに一歩先の見解を述べる監督を見て「これが『プロ』か……!」と何度も感動しました。

(私が応援しているチームゼウスは特にCランクのFraさんがビギナーに近い状態だったため、Fraさんの目線で見ることでさらにそのヤバさを味わえました)

スポーツまたはFPS・格ゲーといった一般的なe-Sportsであれば、身体やキャラの動きなどで一見してある程度「強さ」がわかるでしょう。一方で、テーブルゲームの「強さ」はルールを理解していなければ感じ取りにくいのではないかと思います。

特に麻雀は、(奇しくも第一節でプロ2名が4着となったように)ある一局のみにフォーカスした場合、強い人が負ける(ラスになる)ことも大いにありえるゲームです。オーラスに大差の4着でビギナーでも、”たまたま”四暗刻単騎をアガれればその一局は勝てるという、ハチャメチャな理不尽ゲーです。これは、麻雀をやったことがある・見たことのある人ならほとんどの方がわかっているでしょう。

ですが、監督やAランク選手の途方もなく深いアドバイス、そしてそれを受けてめきめきと実力を伸ばしていくBランク・Cランクの選手たちを見ていると、麻雀の「強さ」がどんなものなのか、ほんの少しだけでも手触りを持って感じることができました。なぜ国内400万人もの人がこのゲームに取り組むのか、そこにどれだけの難しさと面白さが詰まっているのかということが、より深く理解できたように思います。

麻雀=運ゲー、だけど……。

様々あった金言の中でも、特に印象に残っているものの話をします。またチームゼウスの話をしてしまうんですが、他チーム推しの方も「ここのこれがヤバかった」というのがあればぜひ教えてください。聞きたい。

(以後、第一節試合結果及び内容のネタバレを含みます)

第一節の試合終了後、チームゼウスの面々で早速行われた牌譜検討でのシーン。

下記動画の5:01:35あたりです。

www.youtube.com

天開さんが出場した第一試合、南4局の牌譜検討を行っています。オーラスでかつトップとは少し点差があったため、逆転トップもしくはマイナスのない2着を狙うには満貫以上の高得点の手を作る必要がありました。

天開さんの手配には中が二枚あり、他家が中を切ったためポンできる状態でしたが、彼はこれを鳴きませんでした。その判断に「(逆転しようとする)意志を感じた」と褒める鴨神さん。天開さんも同じ思考だったようで「鳴いて中ドラドラだったら(2着もトップも)ないから、いらないと思った」と述べ、Fraさんも同意していました。

ですがそこで、鈴木たろう監督がぽつりと「でもただ、」と切り出します。

「これあれなんですよ。あの、中を鳴かずにメンゼンで仕上げるのも偶然じゃないですか。中を鳴いた後にドラ持ってくるのも偶然なんですよ

「メンゼンで偶然満貫になる可能性が高いか、中鳴いた後にドラとか引いてきて満貫になる可能性が高いかという風に、結局どっちも偶然なんで、開きはじめで確定する状況ってそんなに多くないんで」

「全部偶然なんで、どの偶然が一番広い(可能性が高い)か、っていうのを考えるゲームですね」

すごい、鳥肌が立った! と感嘆するFraさん。天開さんも唸り、私も画面の前で打ち震えていました。麻雀があらゆる手段を使って確率を引き寄せるゲームであることはなんとなく理解していたつもりでした。それでも、第一線のプロから放たれる「全部偶然」という言葉にはとてつもないインパクトがありました。

この前には、Fraさんのオーラスの牌譜検討(4:20:04ごろ~)で「最終局面ではセオリーを逸脱しなければならないこともある」という話が出ており、その時点で麻雀すげ~! となっていたのですが、これを聞いてさらにその奥深さが心にドスッと刺さった感覚がありました。

ここからは私が勝手に思ったことなのですが、たろう監督は、過去の練習配信で「麻雀はポジティブな人が強い」とおっしゃっていました。その時の私は「理不尽なこともあるゲームだし、切り替えがうまいとか、前向きに捉えられるほうが確かに強そうだよね」と考えていました。

ですが「全部偶然」を踏まえると、それだけではないのかもしれない、と思ったのです。「素敵な偶然の確率をどれだけ正確に捉えその時一番マシな選択をし続けるか」というゲームにおいて、マイナスな気持ちはバイアスになります。十分可能性があるにもかかわらず「ドラは来ない気がしてしまう」と、確率の計算にバイアスがかかり、勝てる状況を逃してしまうことがあるかもしれません。

さっき当たった牌、苦手な相手、逆境、ミスしたことのある場況。判断を乱す要素は無数にあるでしょう。また、相手の手配やツモ、王牌など、操作・確認できない事象もあり、どんなに正確に確率を捉えたとしても100%にはならないこともざらにあるのではないかと思います。それでも、どんなときも冷静に、確率を等しく確率であると捉えて正確に判断する、そしてここぞという場面では薄い線にもしっかり手を伸ばしてがむしゃらになれる、それが「運ゲー」たる麻雀に勝つために必要なポジティブさなのかもしれない。たろう監督がぽつりと言った一言で、初心者の私でさえ麻雀のことを考えたくてしょうがなくなって、生意気にもそんな風に想いを馳せてしまいました。

それは神域リーグが一度の試合で終わらない戦いで、第二節までの間にも「試合を受けて麻雀について考える」期間があったからだと思います。正直に言って、今までこんなにしっかり麻雀について考えたことはありませんでした。

どんなに丁寧に確率の糸を編んでも最後にはどうしようもなく運ゲーであり、人の子が神の手に抗いながら競い合うゲーム、麻雀。そんなんおもろないわけなくない!?!? いやマジで! めっちゃおもれ~よこれ!!!

神域リーグは始まったばかり! 第二節は5/23(月) 18:00より!

長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。麻雀をふんわり楽しんでいたものの、真髄からはずっと遠くにいた私が、このリーグを通じてまさに「麻雀の神域」の一端に触れることができたような気がしています。しかもまだ第一節終わったばっかりのところなんですよ。これが9月まで隔週で楽しめるの、信じられないです。最終の第十節まで、もっとたくさんの驚きや感動を味わえること間違いなしですね。

本当は末尾にチームゼウスのここが好きだよポイントを書こうと思っていたのですが、そちらはそちらで長くなりそうなので、またの機会といたします。

神域リーグ第二節は5/23 18:00より、下記リンクの「バーチャル債務者youtuber天開司」チャンネルにて開幕です。再三ですが、今ならまだ乗れます!! このビッグウェーブに!!

www.youtube.com

天開司オリジナルアルバム「Origin」が最高なので全曲感想書く(長文)

配信開始された天開司さん初のオリジナルアルバム「Origin」、もう聴かれましたか?

私はCFでの先行配信組なのですが、配信からもう何度もこの曲たちに救われており、また感想を書きたくてうずうずしておりました。

多分同じタイミングで同じことされる方たくさん居られるだろうな〜と思ったのですが、やはり自分の言葉でも書き記しておきたいとなったため、よろしければお付き合いいただけますと幸いです。まじでめちゃクソ長くなってしまったので、本当にお時間のある時にお読みください……。

そもそも「アルバム出してたの?」という方向けの情報も記載していますので、興味を持っていただけた方はぜひご視聴ください!!

(なお、下記の感想は正式配信開始前〜開始直後までのタイミングで書いたものです)

天開司オリジナルアルバム「Origin」について

※ご存知の方はレビューの項まで飛ばしてください

クラウドファンディングではストレッチゴールを何度もブチ抜く大幅達成を記録、多くの人の期待を背負ったアルバムが満を辞してリリース! 製作陣めっちゃ豪華!

本アルバムは、2020年末の「Vtuber紅白歌合戦(V紅白)」にて新曲PVと共に電撃発表された「天開司オリジナル音楽アルバム制作クラウドファンディング」のリターン(成果物)として制作されたものです。

総合プロデューサーに「青春アミーゴ」「抱いてセニョリータ」等多数の有名楽曲を手がけた作詞家・Zoppさんを迎え、人気の既存曲「HOWL」「セントポーリア」を作詞作曲した塚田貴大(TAKA-Bee)さん制作の新作楽曲を複数収録した全10曲のアルバムとなっています。また、アルバムジャケットは天開さんの新ビジュアル(新角度)を担当したケースワベ先生の描き下ろしです! めっちゃ可愛い! そのロゴに残滓くん(天開さんのTシャツの顔)組み込むの天才すぎる!

 └アルバムジャケットは配信サイトのアートワークなどでご覧いただけます!

アルバム制作CFでは、当初支援総額2500万円にて全8曲+リード曲MV+支援者限定のオンラインライブ(これでもすごい)が最大ストレッチゴールでしたが、最終的には34,374,200円のえげつない大幅達成を記録し、急遽2曲の追加収録が決定。この追加楽曲もそりゃも〜めちゃくちゃ最高なんですがそれはあとで話すとして、非常に多くの方の期待を背負って制作されたアルバムなのです。

 

「天開司と音楽」についての個人的解釈と思い出話

天開さんといえば麻雀を始めとするゲーム配信や大型企画のMCなどのイメージが強く、音楽をやる印象はあまりないという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、かねてより彼は先述のオリジナル楽曲(名曲)「HOWL」の制作、ソロライブ「天開司の絢爛harevutai」(私は新規なので行けておりませんが……)の敢行など、音楽関連の活動も行なっていました。一方で過去には「(音楽は)やろうと思ったけど挫折した」「あんまり自信がない」といった発言もあり、私としては「やりたい」と「(自信や、技量の課題で)やれない」の狭間を彷徨っておられるのかなあ、と感じることが多々ありました。

私は前々から天開さんの声や力強い歌い方が大好きで、「HOWL」はもちろん「イージュー☆ライダー」等の(数としては多くない)カバーをごりごりと擦っている状態でしたので、「アルバムを制作する」と聞いたときはあまりの嬉しさに泣いてしまったのを覚えています。

彼にとってもしかしたら「一度は諦めかけた夢」だったのかもしれない「音楽」というものを、多くの人に拍手喝采祝福を受けながら叶えてくれたことが嬉しくてなりません。そして「ここがゴールではない」と、まだ途上であると言っておられた天開さんにずっとついていきたいな、と思わされるばかりです。

 

各曲の感想

前置きが長くなりましたが、ここから各曲の感想などを書いていきたいと思います!

できればご自身のファーストインプレッションを大切にしていただきたいので、各配信サイトへのリンクを記載しておきますね。サブスク系にも複数登録されております。

nex-tone.link

曲としての良さを味わっていただいた後に、「こんなところに注目してんのね〜」という感じで楽しんでいただけたら嬉しいです。

※なお、書き手は音楽知識皆無の素人です。用語など調べつつ書いてはおりますが、誤りがありましたらご容赦ください。

 

01 Beast

<楽曲>

サビの一聴で「いい曲だな」とわかるキャッチーさがまさしくアルバムリード曲! イントロの時点でメジャーっぽさというか、「有名アーティストの楽曲を手がけてきたプロ集団の仕事です!!」という空気がバチバチです。テレビCMで流れてても全く違和感ないですよねこれ。スーツの若い人が走ってそうだもの。

ギターが目立つ曲ですが、ピアノやストリングスがJ-POPらしい煌めきをプラスしていて、個人的には天開さんもお好きなMr.Children「エソラ」あたりを想起しました。

全体的には前向きな曲なんですが、後述の歌詞も相まって、100%前向き! キラキラ! ではなくほんのりとローな印象も。これが「アーティスト天開司」の入口として絶妙で、「ストリーマー天開司」しか知らない人にもスッと受け入れやすく、かつ既存曲とは違う一面も見せる最高の塩梅だと感じました。

MVも公開されています!!!!!!! ここ好きポイントは色々あるのですが、とりあえず見てくださいお願いします!!!!!!!! 配信された音源を聴いていただいてから見るのがおすすめです!!!!!

youtube.com

 

<歌詞>

これは他の楽曲にも言えることなんですが、天開さんのハスキーボイス・少しの不器用さもある歌い方と苦難の多いパーソナリティには「後ろ向きになることもあるけどさ、それでも」という歌詞がめちゃくちゃハマるんですよね。

歌詞にも表現されている通り、Beastとは恐らく「内なる獣」のことでしょう。「いつも通りの毎日に平気な顔しているけど心の中では獣が暴れまわって爪を研いでるんだ」と。

心底怒ったり悲しかったり辛いときでもそれを隠して「平常心のフリ」で日々を過ごした経験、誰にでもあるんじゃないかなと思います(少なくとも私はあります)。多くの人にとって共感性の高いテーマなんですが、それを「発露しよう」「表に出していこう」という方向性には持っていかないのがこの曲です。

君にだってあるだろう 狂い叫びたい瞬間

そんな時はどうか 微笑んでピースを

内なる声は大きくなっていって、狂い叫びたいけど、だからって日常から逃げ出せとか、獣を解放しちゃえとか言わないんですよ。じっと堪えて微笑んで、夜明けを待つことを肯定してくれる。それも、狂い叫びたい時があることを痛いほど認めながら。これがもーーーー、「天開司」っぽい!!!!!(個人の感想です)

初聴のとき、「タイトルがBeastだし、内なる獣の解放! みたいな方向に持っていくのかなぁ」と思いながら聴いていて、この歌詞が出てきたときは非常に驚くと同時にぶっ刺さりました。確かに、私は天開さんからは「解放せよ!」ではなく「解放できないけど、夜明けなんだよ、せめてピースしてやろう」と言われた方が響くし、彼らしいと感じるな、と。

天開さんは、普段から飾らない等身大の姿で発信するタイプで、そこに大きな魅力があると私は思っています。この人は私と同じように、苦しい時は苦しいし嫌な時は嫌だし、過去でも今でも色々あるんだろうな、と感じることがあります。いい意味で、人離れしていない、普通の感性を持っている人というイメージです。そんな天開さんだからこそ、「生きるのに必要な諦念と些細な反骨の肯定」という、ありふれた人々を祝福する歌詞がぴったり合うのだと思います。「君にだって」と言われても「いやあなたにはわからんやろ」とはならずに、自然に心に入ってくるんですね。

余談ですが、私は仕事で辛くなるといつもこの曲を聴いて頑張っています。社会人の方、特におすすめです。

 

02 Knock on the new world

<楽曲>

1曲目とはガラリと雰囲気の違うゴリゴリのロック曲。Aメロ・Bメロでは声にノイズの加工があり、音も全体的に歪みっぽいのですが、サビに入ると一転して遠く広がっていくような高音が重なります。ライブだとサビ入りで照明の演出変わりそう〜!!

Beast」のようなシングルカット向きのキャッチーさはありませんが、まさに「アルバム曲」という感じの味わい深さ・意外性があり、天開さんがおっしゃっていた「天開司アソートパック」としてのアルバム「Origin」の実現に一役買っています。

「1990年〜2000年代のロックバンドのアルバムに入っていそう」な印象もあり、クリエイターさん、天開さんの好み押さえてるなぁ! と感じました(※)。

※「Beast」「Knock on the new world」「まどろみこぼれて」の3曲は、Zoppさんが代表を務める株式会社ザザからの提供楽曲。

歌い方の面でも過去にはあまりない表現が多い印象です。「人類の行き先は破滅」等の末尾のしゃくりあげる部分が普段の喋りでも聞く声音になっていて癖になるポイント。また、天開さんの過去の楽曲(カバー含む)では綺麗に歌い上げるようなものが多く、本楽曲の若干がなるような発声が新鮮でした。ニヒルさもあるダーティな感じがかっこいい……!

あと、みんな大好きだと思うんですが、ラスサビ前の「噛みしめて味わってみな」の部分百億万点つけたいです。

 

<歌詞>

曲調に反して歌詞の内容は意外と「ガンガンいこうぜ」感が強めです。日常に戻っていく「Beast」とは異なり、タイトル通り新しい世界を作っていく、切り開いていくという強い意思が感じられます。その代わりにうだつの上がらなさも増しており、「天開司」の内面に焦点を当てた「Beast」に対して荒波苦難多き界隈の先駆者・開拓者である「バーチャル債務者YouTuber天開司」のパブリックイメージを引き出した形なのかな、と予想しています。

選ばれし民よ ともに向かおう オレの声導く方へ

「未来は思い通りさ」

デマかリアルか その眼で確かめてみな

さっき「等身大の歌詞が合う!!!」という話を大声でしたばかりなんですけど、「オレについてこい」とははっきりと言わなさそうな天開さんがこんな歌詞を歌い上げてくれるのも「アーティスト」さらには「提供楽曲」ならではですよね。それでいて「この人についていけば素晴らしい未来を見せてくれる」という、(私を含め天開さんのファンの方のお話を聞いているとよく出てくる)期待を下敷きに「とやかく言わず生き様で見せる」天開さんのスタンスは踏襲されています。これもまた「踏まえるところ」と「新たに出すところ」のバランス感覚いいな〜〜〜と感じました。

 

03 TENPAI

<楽曲>

Twitterでこうおっしゃっている方がいらっしゃいました。

「天開司を主役にしたアニメがあるなら、これがオープニングだ」

まさにそんな印象の曲です。疾走感の強いロックチューンで、若干のアニソンっぽさもあります。ライブでちょっと早いテンポで聴きてぇ〜拳突き上げてぇ〜。テンション上げたい時にめちゃくちゃ聴いています。

歌い方の面では、端々での感情の乗せ方が秀逸で、「やってみたかったんだもん」「まだ敗けちゃいないぞ」など、あ〜こんな表情で言って(歌って)るんだろうな、というのが聴くだけで浮かんできます。「だもん」かわいくないですか? かわいいですよね……。

天開さんの歌声には「歌声と喋り声が近い」という特徴があると私は思っています。もちろん「2D」「まどろみこぼれて」のような「!? いつもと全然違う!!」となる発声をされることもあるのですが、基本的には「天開司の声」を活かす歌い方をされている印象です。

それを踏まえてこの曲では、天開さんの「歌声のいいところ」と「喋り声の良いところ」がうまく合わさって、ちょうどよく両方堪能できる仕上がりになっていると思います。

声優さんがキャラクターの声を活かしつつ違った魅力を乗せて歌うような感じでしょうか。後述の歌詞とも合わさって「天開司が歌う天開司のキャラクターソング」と言われても違和感のないような楽曲です。

 

<歌詞>

塚田貴大さんの言葉遊びや韻踏みが光るリズミカルな歌詞! 曲全体の疾走感を演出するのに一役も二役も買っています。タイトル通り麻雀関連のワードも複数登場するほか、終始天開さんのパーソナリティを意識しているのかな、と思わせる内容になっています。

オレだってもっとスマートに 乗りこなせると思っていたんだ

なんやかんや悪足掻きして まだ敗けちゃいないぞ

これも「Beast」でお伝えした「うまくいかないけど、それでもさ」という内容の系譜で、ほんっっっと「天開司」っぽいんですよね……!!! 「まだまだやれる」「まだ大丈夫」じゃなくて、傷ついてるし疲れてるし勝てるかどうかも正直わからないけど「まだ敗けちゃいないぞ」と逆転のチャンスを窺ってるというのが、窮地で驚くべき力を発揮するところのある天開さんに本当にぴったりなんですよね。いつもここでひとつグッときてしまう……。

Cメロでやんなっちゃってグダ巻いてるのも、配信上などでよく見る姿を思い起こさせます。そして堪えて堪えて、最後に聴牌まで辿り着いて、やっぱり「生き様で見せる」んですよね。

塚田さんの提供楽曲全般に言えることなんですが、「天開司のパーソナリティ」への理解の解像度が高すぎませんか……?

なぜこんなにファンに響きかつ楽曲としてのメッセージ性も素晴らしい言葉選びができるのか……凄すぎます……。特に「Vtuberである」ことの表現がもうほんとにたまらんのですが、このお話は最後の「絶滅危惧」で死ぬほどしたいと思います。

 

04 HOWL

■既存曲については、新録版の印象+αという感じで参ります!

Vtuber天開司のオリジナル曲」から「アーティスト天開司」のオリジナルアルバムに組み込まれるにふさわしい曲に昇華されたな〜〜〜〜〜!!!! という感じの再録版。

押しも押されぬ人気の大名曲(おおめいきょくと読む)、もちろん私も大好きです。ただ、大好きが故に「新録版で印象が変わってしまうかも……」という不安もありました。

ですが、そんなものは杞憂でした。新録版、ほんとに正統進化です。

YouTube版はこの歌詞とこの曲を通じて自分に言い聞かせるような雰囲気もあったのですが、新録版では天開さんの歌唱力・表現力の劇的な向上(と、それに伴って自信がついたこともあるのでしょう)によって、「心から出ている感じ」といいますか、一層想いが乗ったものになっているように感じました。

もう少しだけ もう少しだけ この心の側にいたい

この歌詞も「祈り」ではなく「決意」のように感じられます。願っているのではなく、そうすると決めたのです。

ところで、人気かつ最古の(本人歌唱)オリジナル曲のためその分披露回数も多いHOWLですが、直近のベストアクトといえば2021年8月29日に開催されたライブイベント「TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-」の天開司ステージにて披露されたものでしょう。

こちらは数多くのVtuberによる合同音楽フェスイベントであり、随所でコラボセッションが行われていました。「HOWL」では、天開さんの親友であるMonsterZ MATEのラップ担当・コーサカさんがサプライズで登場。間奏にて書き下ろしリリックでのラップをブチかまし、二人で大名曲の新しい姿を作り上げました。

#チューバウト pic.twitter.com/IjFKBXZkf5

— コーサカ💉🦇@12/8アルバム (@mzm_kosaka) 2021年8月29日

歌詞は上記の通りコーサカさんのTwitterでも公開されていますが、これは本当に本当〜〜〜〜に見ていただきたいセッションです。この言葉に応える、天開さんのいつになく感情のこもった「ったくしょうがないな」で何度でも泣けます。

このライブは現在もアーカイブチケットが発売されていますので、買ったら! すぐに!  いますぐにでも! 見られます!!!!

virtual.spwn.jp

※チケットはステージごとに販売されていますので、購入すると天開さんと同じステージでパフォーマンスされた方のライブはすべて見られます。他の出演者の方々もとっても豪華なので、是非に……!

 

05 Favorites

<楽曲>

カラッと明るいミディアムテンポの楽曲。歌詞の面も考慮すると、全曲中一番明るい曲かもしれません。全体的にプラスのエネルギーに満ちていて、聴くだけで少し口角が上がってしまうような雰囲気です。また、当初の全8曲には含まれていなかった追加楽曲のひとつでもあります。

「TENPAI」の感想と重なってしまうのですが、この曲も歌い方に表情が見えるんですよね〜。サビのところ、ずっとニコニコしながら歌ってるんだろうな、という。「嬉しさ」「楽しさ」をテーマにした曲ですから、そのメッセージが歌声を通じてストレートに伝わってきます。「楽しい曲を(テクニックで楽しさを表現する、というよりも)本当に楽しそうに歌う」というのが、いつもの「楽しい時は笑い、憎い時には怒る」天開さんらしい表現だなと感じます。

 

<歌詞>

この曲はほんと、歌詞がいい……! いや全曲いいですけど!! 天開さんご自身も「いい歌詞でしょ?」と仰っていましたが、ほんとそれ。

特に「自分だけの好きなもの」がある、いわゆるオタクの皆さんには刺さりまくってしょうがない内容なんじゃないかと思います。

天開さんといえば「麻雀」や「刃牙」「スラムダンク」「アカギ」等の漫画、マーベル作品など、大好きなものをたくさん持っておられます。それも、配信での発言やネタの使い方などを見ていると、好きなものはとことん深掘りして何度も何度も見返していくタイプなんだろうな、と感じます。(スラムダンクの話すると視聴者が減る、などと言われておりますが……)

この曲では、そうした天開さんの好きなものとの関わり方をベースに「君(聴く人)の中で自分が、何度も読み返されるような存在になりたい」と歌っています。そしてさらに、自分だけでなく聴く人に対しても「何かのファンであること」を肯定してくれる内容なんですよね。

あの名曲のメロディを 気が付けば口遊んじゃう

好きなものは好きだって 胸を張っていけばいい

この動画のベストシーンを それぞれで決めていいんだ

好きなものの特に好きな一点を延々繰り返して楽しむという行為、何かのファンをやっている人にとっては「あるある」だと思います。実際そうやって好きなものを愛している天開さんがこの歌詞を歌うことで、メッセージが心の奥までじんわり染み込んでくるんですよね。特に「天開司さんのファン」である私には、「天開さんを好きでいること」を歌を通じて肯定してもらえたようで(「君の中でも輝きたい」とも言われてしまうし)、前向きになるのを通り越して涙腺にもきてしまいます。しかも「好きでいてもらえる自分であろうとしてくれている」んですよ。そんなの嬉しいことしかないよ。

というか、さっきまで自分の話してたのに突然「君の」ってこちらにメッセージを向けてくるのずるくないですか? (みなさん仰ってますが)お前が俺のFavoriteだよ!!!! 

 

なお、本曲は先述の「TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-」でも披露されています。野外をイメージしたステージだったため、広がる青空、キラキラの背景映像、そしてこの曲この歌詞……という光景があまりに輝かしく、心が浄化されました。ここでも泣いた。というかこのライブは全曲それぞれ別の理由で泣いてました。

 

06 まどろみこぼれて

<楽曲>

そんな優しい声はずるいて! いやマジで! 高音綺麗すぎるし!!

ギャップ必殺、そして楽曲提供に感謝。「リア恋滅多刺さり曲」もとい、暖かい雰囲気のアコースティックメインのバラードです。

私が歌い方に一番驚いたのは後述の「2D」ですが、声色という意味で「聴いたことない声しとる!!!!」となったのはこの曲でした。楽曲の暖かい雰囲気に合わせた、時に囁くような優しい声と、ちょっと掠れた綺麗な高音……! 天開さんの声大好き人間としては、新たな可能性を見せていただき感謝しかないです。たまらんです。

こう、少し吐息が混ざってんのがめちゃくちゃいいっすよね……「何一つも」の「な」の部分とか……。ボーカルディレクションがうめぇし、歌がうめぇ!

 

曲としても、ぽかぽかした陽だまりの様子が浮かぶようで、聴くだけでほっこり……としてしまいます。普段の天開さんや「HOWL」しか知らない方に聴かせて「こんな歌も歌うの!?」って驚かせたいですね……! いつかギターで弾き語ってほし〜〜〜!!! 

いやもうこれがいけるんだったらどんなジャンルの曲でも歌えちゃうのでは!? こんな側面もあるなんて聞いてないっすよ……聴かせてくれてありがとうございます……。

 

<歌詞>

同棲か婚姻かわからんけど、一緒に住んでませんかこれ? 住んでますよね? 住んでなかったら、洗濯物畳んだりとか、一緒に起きたりとか、しないですもんね!?

は〜いや……こんなんお出しされると思ってないじゃないですか普段あれだけ「(恋愛っぽいのは)恥ずかしい」みたいなこと仰ってる方から……。歌詞ならOKなんですね天開さん的には!?

私の個人的なイメージですが、曰く「(レコーディング前の楽曲制作の段階では)丸投げ」状態でなければ天開さんがこの歌詞を進んで歌うことはなさそうな気がするので、本当にありがとうございますクリエイターの皆様。(感謝ばかりしている)

 

このままだと取り乱しただけになってしまうので、少し具体の話をしますね。

「Origin」全体で見ると、歌詞の面で「天開司」を想起させるワードやシチュエーションを含んだ楽曲が多くなっています。ですが、この曲は(若干の不器用さは踏まえつつも)幅広い人からの共感を呼びそうな、普遍的な表現でつくられている印象です。(おそらく、あえてそうされているのでは……と予想します)

そのため自分から楽曲に入り込んで歌う、アーティスト天開司の別の顔が見られる曲になっているのではないでしょうか。また、アルバム全体として見てもこのような楽曲がひとつあるからこそ「Vtuber天開司を現したアルバム」ではなく「天開司がアーティストとして制作した音楽アルバム」としての完成度が高く感じられるのでは……と(素人が勝手に、ですが)考えています。

 

07 セントポーリア

天開さんの2つ目のオリジナル曲として、先述の「V紅白」にてサプライズ披露されたこの曲。実は「HOWL」よりも先に塚田貴大さんから提供されていたものの、歌唱難易度の高いバラードであったことから長く温められていたというエピソードを持ちます。

叶わぬ恋をしっとりと歌い上げる、という「HOWL」とは全く異なる路線の楽曲となっており、初披露時には(悪い意味ではなく)「誰……?」というコメントも散見されました。

私を含め視聴者が驚いたのはその曲やテーマだけではなく、天開さんの歌唱力の飛躍的な向上です。大事にとっておいた楽曲を送り出すに相応しい、これまで以上に素晴らしい歌声に、半戸惑うレベルで驚愕したのを覚えています。ちなみに、初披露時はこの後すぐにアルバム制作CFの開始告知がなされたため、保証人(天開さんのファンの方々)の皆さんの情緒が完全に破壊されていました。私も破壊されました。

あと過去に「恋愛の歌はやらない」と仰っていたので(アルバムの話など影も形もない頃だと思うのでその時は本当にそう思っておられたのだと思いますが)「恋愛の歌やらないって言ってたじゃん!!!!!!!!(良!!!!!!!!)」ってなってました。

再録版では「天開司の新たな一面を見せる」ことに強くフォーカスしていたYouTube版の意外性や歌声の美しさはそのままに、「歌声における天開司らしさ」も発揮された仕上がりになっている印象です。シングル(単体MV)としてインパクトの強かった曲が、アルバムの他の曲と並んで輝くように再編された形だと思います。

正しいことなのに かけがえないものなのに あまりに醜く 君まで汚しそうで

私は毎回この部分で脳が揺れます。「軍手(=何かに触れる時いつも素手ではない)」のイメージもあるせいか「欲しいものがあるけど怖くて手を引っ込める」というのが似合いすぎるんですよね……ハスキーな歌声とマッチするし、「壊しそう」とか「穢しそう」じゃなくて「汚しそう」という手触りのある表現なのも良い。

 

08 僕と夕日

<楽曲>

前曲「セントポーリア」を境に、アルバムは「天開司のB面」に踏み込んでいきます。こちらは「セントポーリア」からさらに一段沈んだ、重厚な楽曲です。Aメロの静かな曲調から、Bメロでぐわっと上がり、サビで感情を爆発させていきます。

天開さんの歌声の大きな魅力である「歌に込められた魂」が存分に発揮されており、半ば叫びのような響きもあります。

ここまで何回も同じこと言ってて申し訳ないのですが、感情やメッセージをストレートに伝える力が本当にすごい……。余裕がなくて苦しそうな発声、と捉えることもできるのですが、そのほんの少し安定しない感じがこの曲の切実な内心の吐露にびったりハマってるんですよね。その中でも「問いかけて」など抜く部分はしっかり抜いているのも上手い……!

サビの度に大きな盛り上がりがあり、ラストではさらに一段ボルテージが上がります。そこにあるのが(他の曲にはあまりない)「忘れないで」という祈りだというのもまた、涙腺にきますよね……。

すでにライブでも一度披露されていますが、生の声で歌われるとさらにめちゃくちゃ心臓にくるんですねこれが。クラウドファンディング支援者ライブでのパフォーマンスが非常に楽しみな曲のうちの一つです。

 

<歌詞>

天開さんご自身も「おじさんに刺さりそうな曲」と仰っていましたが、「積み重ねてきたもの」がないとなかなか歌えない歌詞ですよね……。それも枯れきったのとはまた違って、終わってゆくことを否応にでも意識してしまうけれどそういうものだと諦めきるにはまだ早い、というまさに「夕暮れ」のタイミングにある人にはクリティカルヒットする内容だと思います。

時が全部解決するなら 僕は今どうしたらいい?

個人的に一番心を動かされたのはこの部分です。

この曲は比喩的な表現が多いのですが、ここだけは(前のくだりを含めて)具体のエピソードが出てくるんです。これが独白の中に差し込まれる回想シーンのようで、全体のメッセージの説得力をぐぐっと引き上げているように思います。同じような経験があると、歌詞が急に触れられる距離まで近づいてくるんですよね。文字だけ見てもめっっっちゃわかる……となるところに、天開さんの切実なありのままの声で表現されると、もう、刺さって抜けなくなっちゃうわけで……。

本曲も先述の「TUBEOUT!FES -2021 SUMMER-」で披露されています。一点お話ししたいことがあるのですが、こちらは前情報なしで感じていただきたいので、気になった方はぜひアーカイブをご視聴ください! すぐ買ってすぐ見られる!(3回目)

 

09 2D

<楽曲>

個人的には一番のスルメ曲(何度も聴いてどんどん好きになっていく曲)です。

じっとりとした厭世やどうにもならない気持ちを背負う、という意味では「僕と夕日」に近しいものがありますが、こちらはサビに入っても胸の内で低く、ぐるぐると滞留し続けるような印象です。

この曲、歌うのめちゃくちゃ難いんじゃないかと思うんですよね……。「僕と夕日」がサビ前に盛り上がりポイントがあってから大きな転換があるのに対し、こちらは同じ調子のまま一点の切り替わりポイントだけでサビに入り、入っても(メロディラインは変わりますが)それほど大きな変化がありません。それを最後まできっちり聴かせてくれるのは天開さんの表現力の賜物です。こんな繊細な歌い方もできちゃうのか……! という驚き!

個人的には1番Aメロの

もしこのまま全部混ざり合ってゆくのなら 楽しみなような

の歌い方がめちゃくちゃ好きです!!! どうしようもないからこそ「どうにかなっちゃうんだったら、それでもいいかな」と自嘲する空気をちょっとだけ纏った声、この脆さ、危うさがたまらん……! 感情表現力、まーじで素晴らしいですよね。

 

<歌詞>

「理想と現実のギャップ」というテーマは他の楽曲でも何度か出てきているのですが、この曲はより深いところまで掘り下げているのではないかと思います。

否定型の繰り返しフレーズのたびに「術が無くなっていく」感じというか、「〜あっても、〜ない」と表現することで浮かびかける希望や可能性をひとつひとつ奪われるイメージがあるんですよね。どんどん背が丸まっていって、八方塞がりになっていく。

この絶望感がものすごく人間らしいし、天開さんの声と合うんですよね……。終わりを考えるほど完全に目の前が真っ暗なわけじゃないけど、手足に重りを括られたようで前に進むのは辛い。ああ〜〜〜わかる……。「Beast」もそうですが、天開さんの不器用なパーソナリティと魂のこもった歌声だからこそ、共感性の高い歌詞が純度バチバチで伝わってくるんですよね。

けれども最後には「諦めない」という希望に手をかけて、そこからラストの「絶滅危惧」に繋がるこの流れが本当に最高……よくできている……!

「セントポーリア」からこの曲までの流れで深部にしっかりと踏み込んだからこそ、最後の「絶滅危惧」が光るんですよねぇ。

 

10 絶滅危惧

<楽曲>

ラストの曲がアコースティックギターで静かに始まるのマジで天才だと思います。2Dの重たい雰囲気からの繋がりを感じさせながらも、リズミカルなメロディと少し力の抜けた軽い歌い方で空気感がガラリと変わります。沈んで沈んで、底付きした先にふっと浮き上がって息ができるようになったような、静かな「開け感」がラストにふさわしい楽曲です。

あと、ちょっと切なさを感じる曲調なんですよね……。アルバムの構成としてはそれこそ、ラストに「Beast」「TENPAI」みたいな明るい・疾走感のある曲を持ってくることもできたと思うんです。でも、そこで、このほんのちょっと心が締め付けられるような、明るいのに涙が出てしまうような曲でラストを飾るのが、「天開司のアルバム」だなあ、と感じてしょうがない。胸がいっぱいになってしまう……。

この曲に関しては歌詞で語りたいことが多すぎるので、楽曲面はこの辺で……。こんなにもめちゃくちゃ良い、このアルバムに欠かせない曲なんですが、こちらもFavoritesと同じく追加楽曲だそう。本当にストレッチゴール達成してくれてよかった……。

 

<歌詞>

Vtuberの「魂」に関する捉え方や「転生」の話が出てきます。苦手な方はご注意ください。あと、この曲だけは本当にポエム抜きに語ることができないので、他の楽曲よりも輪をかけてポエムですごめんなさい。

 

本曲はCF支援者向けの先行配信後、天開さんの新3Dお披露目配信にて他の楽曲に先駆けて披露されました。新しい身体を手に入れた天開さんが、最初に多くの人に向けて歌った楽曲です。新規楽曲から披露するなら絶滅危惧かなぁ、と予想してはいたのですが、本当にこの曲を歌ってくださったので、ボロボロ泣いてしまったのを覚えています。

youtu.be

この曲にはさまざまな文脈や背景が何重にも折り重なっていて、それを「天開司」が歌うことに深い深い意味のある歌詞だと感じています。

Vtuber」とは、とても不思議な存在で、「肉体はなく、魂のみがあり、だがその魂は『わたし』であるのか? 聴衆は『わたし』だと名を呼ぶけれど」という非常に複雑なコンテキストに基づいてキャラクター(その人)が成り立っていると私は思います。

加えて天開さんには、いわゆる「前の姿」もあります。(ご本人はもちろんぼかしますが、リスナーだけでなく周囲の仲間たちも話題に出す程度には、「前の姿」が知られていて、完全なタブーにはなっていない点でも特殊です)

youtu.be

 

ただひとつの あとひとりの 尊い僕を

寄り添って 見守っていくと 決めたんだ

「ただひとつ」であり、けれども「あとひとり」である。この「あとひとり」が何を現しているのか。感じることはできてもはっきりとは描かないという言葉選びをされていると私は思っています。(追記:そもそも、「あとひとり」という言葉自体が「自分で最後のひとり」という意味かもな〜と、今になって思ったんですが、でもやはり歌詞全体としては「別の誰か」の存在を意識させるものではあると思います)それは「魂」であるかもしれませんし、「前のわたし」であるかもしれません。むしろ「僕」が別の誰かで、「あとひとり」こそが「天開司」なのかもしれません。いずれにしても、この「あとひとり」を尊いものとして歌うことは、Vtuberというある意味で不安定な、「二面性」から離れられない存在への讃歌に聞こえてならないのです。

わたしでない誰かになることは、常に危うさを伴います。私だって、例えば生活の中で「自分を作りすぎた」状態で日々を過ごしていたら、心のバランスを崩してしまうかもしれません。バーチャルに生きる限り、2本のレールを平行して、またがって進んでいくような状態からはきっと逃れられないでしょう。

でもそれを「尊い」と、「寄り添って見守っていくんだ」と歌ってくれたことが、私は非常に身勝手に、けれども泣いてしまうほどに嬉しくて仕方がなかったのです。配信やモニタの画面を通じて、時に何を愛しているのかわからなくなってしまうこともある、それでも「天開司」がそこにいると信じていることを、許してもらえたようで。「ただひとつ」であり「あとひとり」である。それで、間違ったことなんかなにもないんだと。

 

天開さんは、かつて佐藤ホームズさんとの対談動画「V色の研究」にて、「Vtuberの実在性」について語っておられました。(動画内、14:30ごろから)

youtu.be

この動画からは、天開さんが自己の存在を視聴者に信じさせよう(実在性を高めよう)と強く意識しておられることが伝わってきます。今回のクラウドファンディングによって制作された新しい3Dモデルや、様々な側面から天開さんの魅力を引き出したこのアルバムそのものが、彼の「実在性」をまた一段引き上げるものであることは間違い無いでしょう。

そうして、最後の一曲で、容易に触れれば無粋にもなりそうなその背景をまるごと「見守っていく」と歌った天開司という人を、信じてついていかずにはいられないのです。

 

いつの日か この身体が 消えて忘れられても

名前のない 形のない この歌は聞こえるかい?

リアルの人間と、Vtuberとでは「消える」という言葉の捉え方が少し違うように思います。電脳の死は定義できません。それがバーチャルである以上、本人が「死んだ」と言わない限り、誰かがその実在を信じる限り、そこにあるのがバーチャルです。

このフレーズ自体は、かなり色々な解釈ができると思うのですが、私は「身体がなくなって、忘れられてしまっても、名前も形もない歌を歌い続けていく」という意味ではないかな、と感じています。

電脳の世界から天開司の姿がなくなる日も、いつか来るのかもしれません。

YouTubeのチャンネルだって無くなってしまうかもしれません。

けれども、彼はきっとずっと、そこに居つづけるのだと思います。

こうして世の中に放たれた、たくさんの素晴らしい歌や思い出と、そして「あとひとり」の誰かと一緒に。

総括

もうこんなにも長くなってしまったのですが、最後に全体に関する感想を少しだけ……。

他の方もたくさん仰っておられる通り、このアルバム、全体の構成が素晴らしいです。

普段、音楽アルバムは数回通しであとは好きな曲だけ聴くという聴き方をすることが多いです。

ですがOriginに関しては頭から繰り返し、何度でも聴いてそのストーリーを味わうような楽しみ方をしています。

天開さんを知る方におすすめしたいのはもちろん、音楽アルバムとして見ても非常に完成度の高い物になっていると思うので、ぜひ、いろんな方に聴いていただきたいです……!!!

(本当はもっと短くまとめたかったのですが、初見バイバイのクソ長文になってしまい、申し訳ありません……)

 

先行配信からの数ヶ月、辛い時や悲しい時、あるいは楽しい時や嬉しい時も、「Origin」があってよかったな、と思う場面がたくさんありました。今回、ついに配信が開始されたこと、本当に嬉しいです。

 

最高のアルバムを、ありがとうございました。

塵芥の夢、天上の星

先日、天開司さんのアルバム制作並びにオンライン3Dライブ開催のためのクラウドファンディングが、目標金額を大きく上回る形で終了した。

これは彼の悲願達成によって感情を揺さぶられた一般人の自分語りである。

 

 

「2021年は歌の年にしたい」として、2020年のVtuber紅白歌合戦で突然発表されたアルバム制作のためのクラウドファンディング。一ヶ月ほどの支援期間ののち、最終的には2,500万円のライブ開催ストレッチゴールを遥かに超え、達成率340%以上、3,400万円もの支援が集まった。クラウドファンディング終了間際に行われた見守り配信は、進捗や様々な新情報、リロードのたびにどんどん増えていく支援金額、お祝いのスパチャ、温かいコメント、(あと33-4ネタをきっちり回収するご本人+コメント欄)など、何もかもがうれしく、楽しい時間だった。

 

そして、配信を閉じる直前「ありがとうございました」と深くお辞儀した天開さんを見て、私は心から「この人を応援していてよかった」と感じた。じゃんたまバーチャルインターハイでの嶺上開花の瞬間も、新曲「セントポーリア」を聞いた時もそうだった。私が天開さんを知ったのは昨年の6月ごろであり、まだ半年ほどしか彼を追っていない新参だ。けれども、その短い時間で、すでに何度もそう思わされてきた。

 

 

天開司さんと歌との関係性は中学生の頃に遡る、らしい。(全ての情報を拾えているわけではないため、正確性に欠けていたら申し訳ない)元々自分には何もできることがない、と感じていたところに人から歌を褒められたのがきっかけだったそうだ。ボイストレーニングに通いライブも行ったのだが、うまくいかずに「打ちのめされてしまった」と言っていた。

 

少年時代について話すこの配信の切り抜きを、私はクラウドファンディングの達成後に視聴した。そうしたエピソードがあることは知っていたのだが、どことなくしっかりと聞くのを避けていた。つかラジ(ジョー・力一さんの回)でちらりと出てくる「歌詞は遠い昔に書いたことがあるけれど、すごく笑われてしまって半ばトラウマになっている」などのエピソードで片鱗だけをかじって、ちくちくと心を痛めていた。だが、今回初めてしっかりとこの件について彼自身の言葉で聞いた時、なぜ自分が天開司さんに惹かれるのか、またひとつわかった気がした。

 

自分がこれだけは、と思ったものを手放すのはどんなにしんどかっただろう。けれども彼は、今その星に再び手を伸ばして、4,000人を超える人々の拍手喝采とともに掴もうとしている。

 

 

僕には少しの才能があった。大きさで言えば赤ん坊の小指の爪くらいの、本当にちっぽけなものだ。文章を書くことが、人より少しだけ得意だった。幼少期にはたくさんの小説を書いてノートをいっぱいにした。友達に見せるのはもちろん、一定以上の年齢になるとネット上にも公開した。いわゆる二次創作の方面でも活動して、いくつか同人誌も出した。ありがたいことに、人は僕をそれなりに褒めてくれた。今周りにいる友達も、僕が書く文章がきっかけになって仲良くなった人がほとんどだ。

 

けれども、文章以外は何もなかった。少なくとも思春期の頃はそう思い込んでいた。自分から文章を取ったら本当に無価値でどうしようもない人間になってしまうといつも怯えていた。必死に頑張ったけれど誰かに敵わないという場面にもいくつか出会ってしまい、恐怖はどんどん膨らんでいった。

 

そこで僕はどうしたか。ある時期を境に、文章を書くことに対して全く努力をしなくなった。書きたい作品については書いたけれど、例えば指南書を手に取ったり、好きな小説を読んだりなど、自分の能力向上に寄与する行動をほとんどとらなくなった。頑張って必死になってそれでもダメだと思わされるのが、自分の得意を取り上げられるのが本当に怖かった。努力をせず手をつけなければ、ずっと書ける自分のままでいられる気がしたのだ。小説を読むことそのものも嫌いになった。文筆で身を立てたいと心の隅でずっと思っていたけれど、言えなかった。

 

社会人になり、一瞬だけ文章を書く仕事に就いたものの、会社の都合で全く違う業務を担当することになった。同時にかなり多忙になってしまい、一年ほど書くことから離れていた。仕事で成果があげられるようになると「もう書かなくてもいいんじゃないか」と思うこともあった。もう他に人から認められることもあるし、どうせ赤子の爪ほどの才能だったのだから手放してもいいかもしれない、と。けれど、このちっぽけな才能を、まだ握りしめていたいという気持ちも残っていた。僕はかつて、僕にとって一番美しいと思う文章が書ける自分のことが、とても好きだったのだ。

 

 

そして、天開さんに出会った。幾度も心を揺さぶられて、「この人を書きたい」と思った。この人の仕草のひとつひとつを、時折乱高下する声の震えを、バーチャル世界にあって比較的人らしい姿に灯る人工的な一筒の光を、自分だけの言葉で、書きたいと思った。

 

じゃんたまバーチャルインターハイに涙した十一月の末、やっと筆をとった。当然、ブランクによって速度も出てくる言葉の品質も落ちていた。さらに半年ほど前に天開さんとは関係のないところで書こうとしていたものがあったのだが、そちらは完成せず頓挫してしまっており、その恐怖心もあった。また書けないのではないか、もう二度と書けないのではないかと思いながら、何時間もかけて書き直しを繰り返した。たった500文字と少し、数万文字を書き上げていた頃と比べると、本当に短いものだった。けれど、あの輝かしい嶺上の花に、どうしても言葉を送りたかったのだ。

 

そうして書いた作品は、ありがたいことに、たくさんの人に見ていただけた。天開さん自身がどう思われたかはわからない。だが、自分では、書けてよかったと感じるほどの出来にはなったと思う。やはり私は自分の文章が好きだな、と改めて感じられた。

 

書けないかもしれないということに向き合うのは怖い。本当はこの文章を書いているのも怖いし、制作中のファンアートの小説も、うまくいかないと苦しくなってしまうことがある。けれども、今なら他の小説を読んだり書き方を学び直したりすることだってできそうな気がする。今度はちゃんと自分を好きになって、小さな才能を育てていきたい。賞賛や自己存在の維持ではなく、大好きな人の姿をより美しく書くために。

 

夢を叶える彼が好きだ。小さなことをひとつひとつ積み上げて天上の星に手を伸ばすその姿が、自分にはできなかったからこそ、眩しかった。そして、天開さんのきらめきが、手放そうとさえ思っていた自分の大事なものにもう一度火を灯してくれた。

 

 

大成功に終わったクラウドファンディング。これもまた彼が少しずつ育ててきた種の一つで、CD・ライブという形で大きな花を咲かせることになるだろう。配信中、祝福で雪崩のように進むチャット欄の中に私も、おめでとう、と書き込んだ。そうして、それだけでは言い難い気持ちを言葉にしたくなって、ここに書き留めている。

 

夢を叶えてくれて、ありがとう。書きたいという気持ちにさせてくれてありがとう。できるだけ長く、その輝きを見守らせてもらえたなら、これほど嬉しいことはない。